TOKYO創業ステーションあれこれ

創業支援の目的は、相談者のスキルやリソースを補いながら効率的に創業までもっていき、創業後の成功確率を高めることです。行政的に言えば、創業希望者が自立して雇用を生み、繁栄して税金を納めてくれることです。我々相談員は淡々と感情に流されずに支援していくことが期待されています。
そうは言っても心理面の支援も人間同士が体面する以上、とても大切です。簡単に言えば、話し相手になる、励ます、褒める、傾聴するなどです。来所していただくことで、不安や孤独感から解放される場となればと願っています。
励ましが効きすぎて失敗したこともあります。
相談者が店舗工事の見積もりや融資の確認を取らずに賃貸契約を進めてしまったのです。励まされて、成功のイメージが湧いたのでしょう。文字通りの勇み足でヒヤリとしました。
反対に脅かすこともあります。
お店を開業してもお客様が来ない。その時どんな心理になるだろう?どんな対策が打てるだろう?BSE問題のように事件・事故の影響で客足が止まることもありますよ。
どうにもならない時、撤退の判断基準は?退去費用まで含めた最終損益は?その時生活は?
リスクをリアルに見積もっていただきます。リスクの想定は心理面の支援というよりは事業計画の必須項目ですね。
いろいろありながらも何人かの皆さんは無事卒業、創業へとステップを進めました。
ガンバレ!

六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画策定支援

六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画策定の為、福島県の養蜂事業者様をご支援しています。ご依頼事項は品揃え拡充の為にハチミツを使った加工製品を開発したい、とのことでした。
詳しくヒアリングすると、売上が低迷しており、品種によっては売れ残るハチミツがある、社員は真面目で丁寧に仕事をするが新しいことはやりたがらない、など、色々問題が出てきます。ヒト・モノ・カネはもちろん足りません。
一方、生産するハチミツ自体は農林水産大臣賞を受賞するほど高品質である、長年リピート購入してくれる優良顧客が存在する、など、強みもしっかりあります。
現場を見学させていただくと、巣箱や遠心分離機を始めとした道具や工程の管理・整理は十分とは言えません。品揃えを見ると、ハチミツのパッケージは昔からのシンプルなビン詰めで高品質な割に高級感がありません。
これらを総合すると、養蜂業といえども、製品開発の定石、マーケティングのフレームワーク、生産現場の5S改善など経営支援の基本要素が見事に適用できることがわかります。
しかしながら、最も重用なのは基本姿勢「主体を重んじる」、「善意である」、「一生懸命やる」、「明るく前向きに」であることも実感します。多少改善したとしても、腹に落ちる満足感につながらないと、結局は長続きしないからです。
幸い、支援先の皆さんは誠実な姿勢で聞く耳を持ち、「気づいて」くださっています。主体的改善の第一歩が始まっています。

村上春樹さんのマーケティング戦略

作家の村上春樹さんが若い頃ジャズ喫茶を経営していたことをご存じでしょうか? 当時としてはかなり本格的な、グランドピアノがありクインテットの生演奏もできる店だったそうです。

学生結婚し、留年中の身で、思い切った借金をして店を開こうとすると当然のように周囲は大反対。反対の理由は、経営に素人なうえ、そんな趣味的な店に客が入るものか、ということでした。

村上さんが心がけたことは、「店のコンセプトを本当に気に入ってくれる人に向けてサービスを磨くこと。気に入ってくれる人は10人に1人いるかいないかでも、リピーターになってくれれば経営は成り立つはず。そう思えばいやな客が何人いても気が楽だし。」その信念で辛抱強く頑張った結果、数年後に店は軌道にのりました。

揺るぎない経営理念、本格サービスの提供、コア・ユーザーの獲得、そして、辛抱強い頑張り。小規模企業がとるべきマーケティング戦略そのものではありませんか。周囲の創業反対の理由もそっくりですね。

面白いのは、小説にも同じ方法論を使っていることです。「小説家は見えない読者との間にある種の人間関係を築くべきだ。その為に、自分の作品に明確なスタイルを持ち、それを気に入ってくれるであろう人だけに向かって真剣に語りかける。」そのスタイルを貫いた結果、作品を出すたびに熱心な読者が増えていったそうです。また、小説家に必要な資質はもちろん才能だが、それ以上に集中力と持続力を強調しています。目標を定めて粘り強く頑張るということです。

商店経営の本にチラと村上さんの飲食店経営の話が出ていたので、久しぶりにエッセイ集*)を紐解いてみました。村上さんとマーケティングを結びつけるのは畏れ多い気もしますが、とても納得がいって嬉しくなりました。

*)走ることについて語るときに僕の語ること