村上春樹さんのマーケティング戦略

作家の村上春樹さんが若い頃ジャズ喫茶を経営していたことをご存じでしょうか? 当時としてはかなり本格的な、グランドピアノがありクインテットの生演奏もできる店だったそうです。

学生結婚し、留年中の身で、思い切った借金をして店を開こうとすると当然のように周囲は大反対。反対の理由は、経営に素人なうえ、そんな趣味的な店に客が入るものか、ということでした。

村上さんが心がけたことは、「店のコンセプトを本当に気に入ってくれる人に向けてサービスを磨くこと。気に入ってくれる人は10人に1人いるかいないかでも、リピーターになってくれれば経営は成り立つはず。そう思えばいやな客が何人いても気が楽だし。」その信念で辛抱強く頑張った結果、数年後に店は軌道にのりました。

揺るぎない経営理念、本格サービスの提供、コア・ユーザーの獲得、そして、辛抱強い頑張り。小規模企業がとるべきマーケティング戦略そのものではありませんか。周囲の創業反対の理由もそっくりですね。

面白いのは、小説にも同じ方法論を使っていることです。「小説家は見えない読者との間にある種の人間関係を築くべきだ。その為に、自分の作品に明確なスタイルを持ち、それを気に入ってくれるであろう人だけに向かって真剣に語りかける。」そのスタイルを貫いた結果、作品を出すたびに熱心な読者が増えていったそうです。また、小説家に必要な資質はもちろん才能だが、それ以上に集中力と持続力を強調しています。目標を定めて粘り強く頑張るということです。

商店経営の本にチラと村上さんの飲食店経営の話が出ていたので、久しぶりにエッセイ集*)を紐解いてみました。村上さんとマーケティングを結びつけるのは畏れ多い気もしますが、とても納得がいって嬉しくなりました。

*)走ることについて語るときに僕の語ること