セキュリティ事故で「言志四録」を振り返る

先日、ご支援先の社長からいただいた添付文書付メールがアドレス誤記で一時行方不明になるというインシデントがありました。別人の「こんの」さんにアドレス変換され、気づかず送信した、というよくある誤送信です。幸い、他のルートから私に回ってきたので発見することができました。早速社長に注意を促し、誤送信先も懇意の方で事なきを得ました。
意外だったのは、共同でご支援しているベテランの先輩コンサルタントから、「誤配信だとしても社長の責任だから関知する必要はない」と言われたことです。私としては善意の諫言であり、一点のくもりもありません。責任範囲云々より、現にお客様がリスクにさらされている、注意を促して当然ではないか、とつい声が大きくなってしまいました。
コンサルタントと社長とは「機嫌の良い」関係を維持したいものです。お客様である社長とコンサルタントの関係は、形式上は主従であるべきだとも思います。主君に諫言することは常に一種の危険を伴います。先輩はこれらに重点を置いたわけです。
フームと思いながら何気なく佐藤一斎の「言志四録」を振り返ってみました。
曰く、「およそ人を諌めんと欲するには、ただ一団の誠意、言にあふるること有るのみ」
含蓄が深いですね。私の場合、誠意はあった、理はあった。しかしぶっきら棒だったかなあ、などと反省しました。
ついでにこんなのもありました。
「上司と意見が合わなければ、敬順を主とすべし。次に上司の立場に立ってよく考えよ。竟(つい)に不可なれば軽々に従わず、温和に論議せよ。」
これなんぞサラリーマン時代の私に贈りたい言葉です。古典は読むたびに得るものがあります。おかげ様でとても豊かな気持ちになりました。

事業承継税制の抜本改正

4月1日から抜本改正された「事業承継税制」が施行されます。
今回の改正では、全株式対象、猶予割合100%、雇用要件は事実上撤廃など、大盤振る舞いとも言える内容となっています。
2008年に鳴り物入りで創設された事業承継税制ですが活用実績は極めて低調でした。活用されない理由は減税メリットの割に適用条件が厳しすぎたからです。税制は趣旨と悪用のイタチごっこであるとはいえ、さじ加減が少々厳しすぎました。減税されたはいいが、雇用を維持できなかったら耳を揃えて還しなさいではたまったものではありません。
そうこうするうちに、中小企業の廃業は増え続け、危機的状況となってしまいました。
商工系の政策は、現場の要望・状況を商工会議所、商工会が取りまとめ、政策要望として自民党に送り、省庁で法案化、国会で成立、という流れになります。今回の事業承継税制改正では、このルートが強力に機能し、抜本改正に至りました。
多少遅きに失したとはいえ、政策立案プロセスがきちんと働いたといえます。
昨今、森友学園問題で国会が紛糾しており、重要案件が軒並み先送りされている様を見て、何だかこんなことも書きたくなりました。

ある町工場の事業承継

日本には電子部品、医療機器、航空宇宙など最先端の高度製品を手がける町工場がたくさんあります。
金属加工などの技術を見込んで先端技術の案件が持ち込まれる。挑戦して納品すると新境地が開け、いつの間にか世界のニッチトップになっていた。そんな、すごい町工場を支えるオヤジさんは80歳を超えて現役の方もたくさんいらっしゃいます。
当然事業承継が問題になります。
事業承継というと、一般的には親族内承継、従業員承継、M&Aなどです。
デューディリジェンスと称して、事業価値をカネで評価し、計画します。
ところが町工場の世界では全く異なった価値観の基に技術が承継される場合があります。

「オマエは気に入った、この事業を引き継げ、設備をみんなやるから持ってけ、」という事業承継です。「オレも昔人に世話になった。だから世間に恩を返す。この事業はやる価値がある。できる人が続けて欲しい。」そんな考え方で、カネの計算をしていません。オヤジさんのメガネにかなった人が究極の無形資産を引き継いだのです。
カネではない、名誉でもない、自分のこころに感じる価値観で行動している。メジャーなケースではないし、気をつけないとそれこそくだらない手間がかかってしまいます。それでも、小説やテレビドラマと見紛う世界が現実にあります。